コラム

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2025.11.18

開くチカラ”と“まとまるチカラ”を活かしましょう!

皆さん、この「場」を利用して、“開くチカラ”と“まとまるチカラ”を充実させてください。

はじめに

皆さん、この「場」を利用して、“開くチカラ”と“まとまるチカラ”を充実させてください。 LFP(Local Food-system Platform)は、地域の持続可能な食料システムをつくることを目的にしています。私は、LFPを構成する多様な関係者の皆さんが、自らの利益の追求やミッション達成を通じて、食品等の持続的な供給という社会課題を解決する企画だと理解しています。たしかに、食に携わる関係者の皆さんには、食品等の持続的な供給を、社会的な使命と意識して活動することが期待されています。しかし、それは、あくまでも、自らのビジネス(地方公共団体の場合は行政サービス)で、それぞれのお客様に価値を届けることを通じて実現されるものと考えます。

LFPの本質

農林漁業者、食品製造業者、食品小売業者、外食業者等の事業者の皆さんにとっては、個性豊かで、美味しく、楽しい食を提供すること。地方公共団体の皆さんにとっては、そうした事業者の皆さんの取組を支援して、地域経済の活性化や地域住民の皆さんのウェルビーイング向上を実現すること。このような多様な関係者の皆さんの“本業”活性化が集まって束になり、相乗効果を発揮することによって、地域の持続可能な食料システムをつくろうという取組がLFPだと理解しています。

背景として

人口減少や気候変動など、私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。この変化に適応して生き残るためには、個々の組織内の努力が不可欠ですが、全てを“自前主義”で臨むには限界があるのではないでしょうか。地域の「食」に関わる産業の競争力強化、イノベーション創発のために、関係者の協調行動を活性化する社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の蓄積と、その基盤となる多様な関係者間のネットワークの拡充が求められています。関係者を信頼して、積極的に情報を共有できるか、取引コストを下げられるか、目的を共有し協働できるか、新たな挑戦のリスクを負えるかといった点が、競争力強化やイノベーション創発につながるからです。

中心課題とは?

こうしたネットワークの拡充とソーシャル・キャピタルの蓄積においては、多様な関係者や知識・技術などを呼び込み、新たなアイデアを生む際に求められる“開くチカラ”と、関係者が結束して実践活動を展開する際に求められる“まとまるチカラ”の二つの“チカラ”が発揮される必要があります。しかし、実態としては、この“開くチカラ”と“まとまるチカラ”の両立が難しいのです。開くチカラを重視すると、新たな「アイデア」は導入されやすいが、それを実行に移す組織力が伴わないことが多く、逆に“まとまるチカラ”を重視すると、アイデアの実行可能性は高まりますが、閉鎖的になってイノベーションの創発が妨げられることが懸念されます。

解決策は?

では、どうやってこの“開くチカラ”と“まとまるチカラ”を両立させれば良いのでしょうか。国内各地域で、多くの参加者を惹きつけ、持続的に運営されている「食」に関するプラットフォーム(地域の農林漁業者、食品企業、金融機関、地方公共団体、大学等研究機関などの多様な関係者が集い、協力して、イノベーションの芽を育み、新たな商品・サービスを開発する仕組み)には、共通の工夫が見られます。それは、プラットフォームを二層構造としてデザインし、運営することです。第一層で幅広く多様な関係者を誘って全体の土台としつつ、第二層で具体的なテーマを設定して参加者を募り、実践活動を展開するスタイルを採用しているのです。

プラットフォームからの提案

地方公共団体や支援機関の皆さんにおかれては、是非、この二層構造のデザインに取り組んでいただくことをご提案します。第一層では、参加者間での学習、知識・技術の共有、他者とのマッチングなどの機会を用意し、参加者の多様性と協調的なカルチャーの醸成に取り組んでいただく。第二層では、様々な知識・技術の組み合わせによるイノベーション創発や、新しい商品・サービスの開発に取り組んでいただく。“開くチカラ”を重視する第一層と“まとまるチカラ”を重視する第二層での「場」のルール(行動規範など)の切り換えがポイントになります。
プラットフォームに参加される民間事業者の皆さんにおかれては、こうした「場」の特性を意識して、LFPの地域コンソーシアムなどの「場」を活用し、“開くチカラ”と“まとまるチカラ”を存分に発揮していただきたいと考えます。

プラットフォームの特性と構築期の課題

「食」に関するプラットフォームの特性を考えると、活動に参加される関係者の量(事業者数など)と参加の質(参加者の積極性など)が向上すればするほど、参加者が得られるメリットが増し、それが更なる量・質の向上を呼ぶ構図が期待されます。ただし、こうしたポジティブ・フィードバック(連鎖的拡大)が軌道に乗るまでの間は、どうしてもリスクをとって試行錯誤を繰り返すことが必要になります。

構築期における主導役

この我慢の季節に、誰がプラットフォーム構築を主導することが望ましいでしょうか。地方公共団体の皆さんが中心的な役割を果たすことが多いですが、持続的な地域経済活性化の観点からは、民間の事業者の皆さんが、プラットフォーム参加・運営のコストを、将来への投資と捉えて、能動的に関わることが求められています。

最後に

LFPの仕組みをフル活用していただき、全国各地で地域特性を反映したユニークな二層構造のプラットフォームが機能し、地域経済の活性化、持続的な食料システムの構築に貢献することを期待しています。

このコラムの執筆者

神井 弘之

神井 弘之

日本大学大学院 総合社会情報研究科 教授

1967年愛媛県生まれ。
東京大学法学部卒、ミシガン大学公共政策大学院修了。博士(学術)
2023年度から、主に社会人を対象とする通信制大学院で、
地域活性化、官民協働プロジェクト、食料・農業・農村政策、
自然資本のマネジメント、生態系サービスなどに関する研究活動を展開中。
合同会社神研代表社員。
1991年度から2022年度まで 農林水産省に在籍し、
大臣官房審議官(消費・安全局担当)、
統計部管理課長、食品製造課長、
FCP(フード・コミュニケーション・プロジェクト)チームリーダー、
三重県マーケティング室長、
政策研究大学院大学特任教授(農業政策コースディレクター)などを歴任。